時間停止能力の使い方 〜豪華客船の夜〜

前書き(もしくは言いわけ)

はじめまして、孤独な水鶏です。
今回、初めてコレクション系以外の話に挑戦してみました。そこで、いくつかお知らせしておきたいことがあります。
・前半は時間停止ではなく、巻き戻し能力の経緯と、時間操作系能力のご都合主義について述べています。興味の無い方は、『◇◇◇』まで読み飛ばしてもらってかまいません。
・ややこしいですが、語り手の一人称は地の分では『俺』、会話文では『僕』で、敬語を使っています。
・『子供じみているが残酷な悪戯』が得意分野で、今まで通り本番の描写は極端に少ないです。
・引き続き、シチュのリクエストを募集しています。

前書きというより、長い前置きでした。それでは本編をお楽しみください。

  ◆  ◆  ◆

数ある能力の中に、『巻き戻し』というものがある。
宇宙全体から一個人限定まで(数時間から数日という限度はあるが)自在に巻き戻すことができる人々は、罪を犯してはなかったことにするという行為に快感を見出すことが多い。
その男は、いくら相手がすべてを忘れる(正確には経験しなかったことになる)といっても、意識があり、痛がり、怒り、泣くといったごく普通の人間の反応に耐えられなくなっていた。
初期にひどい悪戯した身近な女性と付き合い続けることにも、だんだんと限界を感じることが多くなっていたとき、男は自分とは違う能力を持つ青年に出会う。

その青年こそ、男としての本能に目覚めてから、コレクションという趣味を持つまでの間、ちょうど人生の絶頂期を過ごす高校生のころの俺であった。

  ◆  ◆  ◆

ある日、俺は仕事のためにアメリカのとある州を訪れていた。
同じ国の中でも名産品など文化の違いはある。何か記念になるものでも買おうと立ち寄ったショッピングセンターで、俺は不思議な光景を目撃する。
一言で書くなら、『フードコートで暴れ回る異常者』
これといった特徴のない温厚そうな風貌の男が突然、隣のテーブルで食事をしていた家族に襲いかかったのだ。
具体的にはまず父親を殴り飛ばし、息子の髪をつかみ立たせ突き倒す。
唖然とする二人の娘を両腕に抱え他の客に向けて放り投げると、パニックを起こした母親を床に押さえつける。
ようやく辺りがことの異常さを認識し、客たちが逃げたり集まってきたりしている中、男は泣き叫ぶ母親の服を破り脱がせ、性的な悪戯を始めた。
いったいこの後どうするつもりなんだろうと見ていると、やがて異常者に複数の男が突進し、そのまま取り押さえられてしまう。
直後に男が不敵な笑みを浮かべるのを、俺は見た。

次の瞬間には、目の前でありえない現象が発生する。
男たちが異常者から離れ、逆向きに走り出したのだ。
母親の破れた服が元通りになり、逃げていた客が後ろ足で戻ってきて、二人の娘が宙を舞いイスに座り、息子や父親も起き上がる。
暴れていた男がゆっくりと立ち上がるころには、数分前の平和な風景が再生されていた。
その日、俺は見慣れた一時停止ではない、巻き戻し能力の存在を知ったのだ。

  ◆  ◆  ◆

その後、俺も自分の能力を彼に見せ、(おかしな表現だが)一時停止中の世界も巻き戻せることを知った二人は、すぐに仲良くなった。
彼が「意識のない女性に悪戯できる君がうらやましい」と言うと、
俺は「意識のある女に悪戯できる貴方がうらやましい」と答える。
もちろん、自分の所有物なら解除してもよいのだが、十分な倉庫や封印場所を持つ収集家としての人生や記憶操作能力を知らない当時の俺は、大人数や世界的に有名な女性を捕獲することができずにいた。
普通なら、意識のある女に悪戯するなど「どうぞ顔を覚えてください」と言っているようなものだ。
さらにもう一つ、俺が自分の能力で悪戯をするとき、最も面倒だったのが後始末である。
体を拭いたり洗ったり、服を着せたりポーズを直したり、体力に自信のない俺にはかなりの重労働だった。
それが一度に数人、数十人となればなおさらだ。

お互いの欠点をうまく補うことができる二人の能力者は、ときどきあるイベントを開催するようになる。

  ◆  ◆  ◆

話を進める前に、ここで俺や彼のような『時を操る能力』についておさらいしておきたい。
最初に結論を言ってしまえば、『例によってご都合主義』と説明するほかない。
自分と近くにいる能力者を除き、宇宙空間を含むすべてから、風に舞う砂の一粒に至るまで、俺たちは自由自在に時を止め、あるいは巻き戻すことができる。
生物や食物は腐敗せず、特に人体は喉付近まで入れれば何でも飲み込もうとし、許容範囲を超えれば拒絶反応を示す。
叩けば赤く腫れ、切れば血が流れる。停止してからできた痣や傷は、やがて回復することも確認している。
「それは正確には止まっていないのではないか」と言われればそれまでだ。
気温や風、空気中の微粒子や機械、水や火、その他諸々はどうなるのか?
そろそろ追求してはいけない領域に踏み込もうとしているのをお察しいただきたい。
あるいはリーダーなら、そのすべてにおいて解答が可能なのかもしれないが……。
今はただ、俺たちが楽しむ様子を見て、みなさまも楽しんでくれるとありがたい。
上記の事象については、またおいおい説明していくつもりだ。
急に無粋な話をしてしまった。本編に戻るとしよう。

  ◇  ◇  ◇

月の光を浴びながら、俺たちはプールの前に立っていた。
真冬だというのに水で満たされた直方体の空間に、大量の女性たちがすし詰めになっている。
老人と男の大人と子供を機関室へ瞬間移動させた後、女の大人と子供の中でも二人とも好みではない者だけを抜き出していったのだが……、
かなり判断基準を甘くしても数百人になってしまい、せっかくなので服だけをプールサイドに瞬間移動させて、全員で夜の水風呂に浸かってもらうことにした。
容姿が優れていなくとも女は女である。
最初は友人が下着風呂に入っている間、俺は彼女らの唇が紫色になっていく様子を観賞した。

二人は大西洋を航行中のとある豪華客船の上にいた。
もちろん時間を止めてから、瞬間移動で忍び込んだのだ。
これから数日の間、(動いているのは)二人だけの共同生活するにあたって、まずは船内にいるいらない人間たちを隔離する。
海に放り投げてもよかったのだが、それだと海の一部分まで巻き戻さなければならなくなり、彼が面倒だというのでこのような方法に落ちついたのだ。

普通ならゼリー状に固まっているはずの水の時間はすでに解除してあったのだが、なかなか凍らない。
しかし、この後に回想する約五日間分の時間が経過してから久々に外に出てみると、見事、プール全体に氷が張っていた。
全員そろって鼻水を垂らし、中には本能的に涙を流している者もいたが、その雫も凍結し、髪や睫毛にはつららのようなものまでできている。
一通りその光景を撮影すると、手近にいた痩せ気味の少女をゆっくり引き抜く。バリバリと割れた氷の板が体の周りに浮き輪のようについてきた。
プールサイドに寝かせて、口を大きく開けさせると、中に紫色の物体が入っている。
驚くことはない、グレープジュースを含ませていただけだ。喉を舌で栓のようにふさげば、なみなみと注いでも飲み込むことはない。
俺たちは天然のシャーベットを皿に移し、味の感想を言い合いながら屋内に戻った。

豪華なステージやダンススペースがあるホールまでの道を、これまでの日々を回想しながら進んでいく。

  ◆  ◆  ◆

正面に見えてきた宝石展の看板。
その会場はこの時刻にはもう厳重に閉鎖されていたが、いちおう人がいないか、最初の確認で中を見てみることにしたのだ。
言わずもがなだが、俺には瞬間移動能力がある。
これまでの経験から防犯システムも停止することを知っていたので(今は作動したところで何の意味もないのだが)、必要以上に安心して中に入った二人は、そこでとんでもないものを発見して驚いた。

比較的高い天井にあるダクトから、一人の女性が腰に付けたワイヤーを頼りにぶら下がっていたのだ。
床と平行に浮いた彼女の目の前には大きなショーケースがあったが、そこにはすでに大きな穴があいていて、まさに中で輝くネックレスに手を伸ばしている状態だった。
「……おしかったな、ってところか?」
ブロンドの白人女性は目鼻立ちも整った美女で、その勝ち誇った表情は彼女の華麗な印象をさらに際立たせている。
突然その場にうつぶせになる俺に、彼は言った。
「どうした?」
「上を見てきます。あの映画をまねたわけではないでしょうが、仲間がいるはずです」
「なるほど」

ダクトの中に瞬間移動すると、予想通り目の前にワイヤーを全身で包み込むようにつかんで支える女性がいる。
筋骨隆々な黒人だが、さすがに一本のワイヤーで人間一人を持つのはつらいのか、全身から汗が噴きだし、表情も必死だった。
「すぐ楽にしてやる」
俺は彼女の両手からワイヤーを外すと、その上気した頬に触れ、いっしょに下へ戻る。

彼も白人の腰からワイヤーを外し、体を裏返し仰向けにしてから床に下ろすところだった。
「これはまた、強そうな女だな」
床に張り巡らされた赤い光線に直射され続ける、対照的な表情の二人。
その肉体も、白人のバレリーナのようなしなやかさに比べて、黒人は格闘技の選手のように引き締まった筋肉美の持ち主だ。
「罰を与えたいのは山々なんですが、僕たちの痕跡のみを巻き戻すのも難しいですよね」
「その通り、海とは逆に人間の体内に入った小さな物質だけというのも、面倒極まりない」
「では、展示品化だけで許してあげましょう」

数分後、美女コンビは全裸でお座りのポーズをとっていた。
右から白人・ショーケース・黒人の順にワイヤーでぐるぐる巻きに固定され、両手足も警備室から拝借した手錠で拘束した(そのときに会場の監視カメラがハッキングされていることもわかった。もしかしたらまだ仲間がいるのかもしれない)。
二人には最後の思い出として、全身に展示品のアクセサリーをつけてあげた。
ティアラ、ネックレス、イヤリング、ブレスレットなどなど。
そして最後に、笑わせた顔や体中に『私は泥棒』と書き込んで完成。
総額いくらになるのか想像もできない新しい展示品に満足し、俺たちは会場をあとにした。
「巻き戻すときは、あの二人を除外しないといけませんよ」
「そうだな。人間二人ならそれほど面倒でもない」

話が前後してしまうが、その数時間後に実施された客室回りで、俺たちはこの二人の仲間を発見する。
数台のモニターがベッドを囲むように設置されていて、その中央であぐらをかいていたのは、見たところ中国人か日本人の女性だった。
そばかす顔に黒縁の厚いメガネをかけた典型的なハッカーは、薄ら笑いを浮かべながら一台のノートパソコンを見つめている。
機械も停止しているので、画面にはネックレス獲得直前の白人女性が映っていた。
せっかくなので、彼女も展示品に仲間入りさせてあげることにする。
一番年下そうなのに、一番胸が大きかったのは、なんだかできすぎているような気がしたが。

  ◆  ◆  ◆

ホールに今晩(といってもここはずっと夜なのだが)のメニューを運んでおこうと、俺たちは厨房に入った。
そこに並べられているものも、もちろん普通ではない。
まだ客に出される前だった様々な国の料理は、皿から少女たちの裸体に乗せ換えられていた。
ある者は仰向けで腹の上に、ある者は四つんばいで背中の上に、棒状の料理は口や鼻の穴、肛門やあそこの中に。
新しい、そしてほとんどの人が「やりすぎだ」と批判するであろう試みに挑戦中の者もいる。
服を脱がせ、念入りに水洗いした少女の中でも、特にレベルの高い数人を、スープやカレーが入った鍋の中、巨大なボウルに満たしたジュースやワインの中に浸からせてあるのだ。
もちろん火は消してあるが、鍋はいくらかの温かさを残したまま、飲み物は冷蔵庫に入っていたものなので、とても冷えている。
俺は『仰向けの腹に並べられたパンに、体中に挿入されたソーセージを挟んで』と『黒人が浸かったミルク』を、彼は『四つんばいの背中に乗せられたステーキを、臀部にかけられたソースで』と『サウジアラビア人が浸かったワイン』を、それぞれ台車に乗せて厨房を出た。

  ◆  ◆  ◆

ようやく到着したホールは、まさにハーレムを具現化したような空間になっていた。
スイートルームから移した豪華なソファーは、それ自体が見えなくなるほど女体に覆われているのに対し、その前のステージやダンススペースでは、歌手やピアニスト、パートナーを失った女性たちが停止時のポーズのまま立っている。
実はここ以外の施設にいた女性たちを悪戯している間に、俺たちは軽く五日間を要していた。
特にレベルが高い女性が集まっていたホールは最後までとっておくことにして、ここ以外を回って気に入った女性をソファーに移してきた。
つまりこの家具は、俺たちの五日間の結晶ともいうべき代物なのである。

俺たちは全裸になると、その結晶の上に豪快に腰を下ろした。
俺は尻の下、彼はモノの下が顔だったが(とにかく複雑に絡み合っているのだ)、もちろん気にしない。
思い出話に花を咲かせながら最後の晩餐を終えると、俺たちは食後のデザート目当てにステージに上がった。
俺はピアニスト、彼は歌手を選び、二人で初心にかえって脱衣から前戯、本番から射精まで丁寧に楽しむ。
その後は一人で両手を広げる哀れな淑女たちのドレスを剥き、二対数十での行為を始めた。

数時間後、疲れきった俺たちは仰向けになり、大きなシャンデリアを見つめている。
周りには様々な体位の女性たちが、笑顔のまま放置されていた。
最初の方で出し切ってしまったが、そのうち数人の顔や胸、股間には俺たちが悪戯した証がかけられている。
「満足だ……俺は満ち足りた」
「僕も……もう十分です」
深呼吸しながら、二人は会話する。
「今回もやるか? あれ」
「ええ、やりましょう」
俺たちは互いの顔を見合い、同時に微笑んだ。

  ◆  ◆  ◆

その十分後には、服も着た俺たちの前に、泥棒三人組以外のオールスターがそろっていた。
口の中でシャーベットを作った、容姿レベル下位の女性たちで満たされたプール。
その周りを囲むように並んだ、全裸の淑女たち。
紹介しきれなかった、卑猥な格好のウェイトレスや女性船員たち。
全身に料理を盛り付けられた、あるいは鍋やボウルの中で汗や鼻水を垂らす少女たち。
今まで悪戯した千を超える女性たちの前に立ち、俺たちは記念写真を撮った。

そのまま離れた場所へ移動し、壁の陰に隠れる。
「いきますよ」
「おう」
「3、2、1、0!」
その瞬間、俺は五日ぶりに時間停止を解除した。
カウントダウンと同じ約四秒が経過する間に、自分たちの状況を理解していく女性たち。
やがてその半数近くが轟かせた悲鳴が、大西洋にこだまする。
訳も分からぬまま屋内に入ろうと数人が移動を始めたとき、今度は彼が能力を発動した。
いつもの何倍もの速度で、次々と女性たちが戻っていく。
それでも数分かけて、ようやく五日分の時間が遡られた。
早速警報が鳴ったのか、警備員たちが宝石展の会場に向かうのを見ながら、俺たちは最後にもう一度船内を巡る。
そこには読んで字のごとく、『何事も無かったかのような』風景が広がっていた。
すれ違う女性たちのほとんどと関係を持ち、少女たちの分泌物を味わったことも、この世界ではなかったことになっている。

俺たちはその様子に若干の虚脱感と大いなる満足感をかみしめ、平和な豪華客船から大陸に帰ったのだった。




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