時間停止能力の使い方 〜無邪気の至り〜

日本時間8月某日の正午、
某駅前のスクランブル交差点に突然あるものが出現した。
誰もがイメージするそのままの“檻”である。
横断しようとしていた歩行者にはもちろん、
天井も格子状になっていて周囲の建物からも内部がよく見えた。
二十人ほどの女性が生まれたままの姿で直立している。
正確にはそれぞれ胸や尻、股間を強調するポーズをとったまま、
身動き一つ、瞬き一つしないで静止していた。
しかもその4割が白人、3割が黒人、3割が黄色人という比率である。
さらによく見ると、晒された素肌に何かが書かれている。
額や頬、背中や腹にそれぞれの母国語らしき言葉で記されているのは、
名前や国籍のようだ。ちゃんと黒人には白色のペンが使われている。
そして、檻の一面に整列している7人は、
日本の漢字が一文字ずつ印刷されたパネルを掲げていた。
“国”“際”“指”“名”“手”“配”“犯”
と書かれたパネルを。

彼女たちは一秒前まで、それぞれの逃亡生活・隠遁生活を送れていた。
たった一秒間で、世界中で社会から身を隠していた人間たちが消失し、
再び一つの国の都市にあられもない姿で出現したことになる。
“指”のパネルを持っている黒人の彼女が全身びしょ濡れなのは、
一秒前までモーテルのバスルームでシャワーを浴びていたからだ。
“配”のパネルを持つ白人の彼女なんて、大量の鼻水を垂らしている。
口にくわえたティッシュを見るに、おそらく思い切り鼻をかんだ瞬間に
連れてこられたのだろう。
“犯”の彼女に至っては、大きな用を足したままポーズをとっている。
その臭気は出現した瞬間から辺りに漂い始めていた。

檻の周りには一分も経たないうちに人が集まってきて、
それでも彼女たちが微動だにしないことがわかると、
人形だと思って携帯で写真を撮る者も現れ始めた。
やがて現場保存と交通整理のため近くの交番や警察署から
警官が大勢やってきて、あっという間にブルーシートで覆われる。
目の前で手を振ったり、檻の中に手を入れて触れたりしてみるが、
誰一人として反応しない。
刑事たちもとりあえず彼女らの顔写真を撮り、ICPOへ照会しながらも、
よくできた人形だろうと判断して、檻の切断作業の準備に入る。
問題はどうやって一瞬でこの場所へ出現させたかだが、などと
議論しているさなか、それは起こった。
突然、中にいた全員が動き出したのだ。
びしょ濡れの黒人がくしゃみをし、白人は鼻水が垂れ、
生理現象も再開する国際指名手配犯たち。
双方ともに驚きながらも、切断する間は反対側に集まるようになどの
意思疎通がなんとか行われ、檻からの解放と同時に逮捕された。

このニュースは夕方には世界中で報道され、様々な説が生まれた。
神による天罰にしてはやり方が稚拙、友好的な宇宙人による浄化作業、
超能力者の善行、集団催眠による自首、などなど。
まさかこの中に正解があるとは、言った本人でさえ思わなかっただろう。

おなじみ時間停止能力と瞬間移動能力を両親から受け継ぐ彼は、
当時まだ14歳になったばかり。
詳しくは同シリーズ〜ある男の成長〜を読んでいただきたいが、
幼稚園から小学校の間に女の裸を見慣れてしまっていた彼は、
この時期ようやく性的な悪戯にも目覚め、そのレベルも高くなっていた。
事実、集団誘拐された国際指名手配犯たちの口や股間からは、
彼の分泌物が検出されている。


三日後に時間停止して瞬間移動したのは、地方のとあるプール施設。
その中でも彼は、大人子供共用でも一番小さなプールの前に来ると、
入念に準備体操してからTシャツを脱ぎ、ゆっくり足を入れた。
するとその部分だけ水が動き出し、移動するとまた止まる。
水の中で静止する利用者のうち、お年寄りと大人の男性を一ヶ所に集めて
瞬間移動で大きなプールへ排除する。
入れ替わりにその大きなプールや他のプールにいた少女たち・
若い女性たちを次々と集め、水着以外を最初のプールに瞬間移動させる。
あっという間に、水面も見えなくなった直方体の空間は、
全裸の女体と最初からいた五人の少年の体で満たされた。
その密度も、水だけ解除しても浮き上がったり流れたりしないレベルだ。

さっそく海パンも脱いで全裸になると自分の作品の中に入り、
満員の電車内へ分け入るように女たちの隙間を歩いていく。
瞬間移動の際、タイプ別に集めておいたので、
彼は好きな順に女中をめぐっていった。
外国人→義務教育世代→若ママ→黒ギャル→高〜大以上→総合ランク上位者
最後は、それまでの5タイプからそれぞれ最も良かった者を選出し、
最初からいた少年たちのモノをしごかせ、合体させてから出させた。
止まっていたが一番うれしそうに見えたのは、肥満児の少年である。
日常生活ではまず出会わないであろう、真っ黒に日焼けした金髪鼻ピアスの
女性と性的な関係になれたのだから。
逆に女側では、美少年と一つになれた純朴そうな少女が一番輝いて見えた。


さらにその三日後、彼はとある夏フェスの会場にいた。
本来ならありえない完全なる静寂の中、
演奏停止中のバンドが立つ舞台に上がる。
有名なガールズバンドの人気曲のサビ部分という絶妙なタイミングで
能力を発動していた彼は、さらに客を喜ばすために楽屋に向かった。
すでに演奏を終えた・これから出番問わず、この日の参加グループから
女だけを舞台に運ぶ。全員女性のグループはもちろん、
キーボード担当だけでも四人いた。中高生のアイドルもいる。

彼の瞬間移動能力の最大の利点は、たとえば
『舞台上と観客席にいる女たちの衣服だけE氏のコレクションルームへ』
と念じるだけで発動できることである。
ちなみにE氏とは能力者仲間でも有名な女性の衣服コレクターである。
コレクションたちのファッションに興味のない能力者は、
たいていE氏へのプレゼントにする。ただ単に処理しづらいのだ。

その後、彼は舞台上のアーティストたち全員の下の口に
マイクをくわえさせると、観客席の中に紛れてから解除した。


あとがき
孤独な水鶏と申します。まずは完全な尻切れトンボになってしまったことを
お詫びするとともに、下手な言い訳をお聞きください。
久しぶりに書いてみると、シリーズ初期に設定されたキャラを生かそうと、
まず中2の夏あたりの思い出を描こうとしたのですが、
だんだん青年、成人にならないと考えないようなことまでしそうだったので、
勝手ながらストップさせてしまったわけです。
次回はその、十代後半にありがちな熟考期のエピソードを書きたいと思います。
ご期待ください。



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