不止身日記

〜4〜

突然の痛みに目を覚ますと、その瞬間に時が止まる。
眼だけ動かして見ると、小さな足で右頬をキックされていた。
夫婦の寝室に横たわっているのは、十人の子供のうち女子だけ六人と、
そのまだ若々しい母親、その裸体たちに包まれた俺の計八人である。
いらないので男子部屋に運んだ彼女らの父もしくは夫も、
今ごろ息子たちに囲まれて眠りについているだろう。
俺は初めて物理的な反抗をしてくれた末っ子の少女を母親の上に返すと、
再び瞼を閉じて七人分の寝息を再開させる。

これだけの規模の学園にいると、毎日毎晩、実に様々な児童・生徒が
在籍していることに気づかされ、驚かされる。
昨夕に選んだ女子サッカー部のキャプテンは、ベタな大家族の一員だったのだ。
しかもかなりハイレベルなスポーツ一家で、上は父親から下は赤ん坊まで、
例外なく筋骨隆々。七割が日に焼けて真っ黒なのだが、
残りの三割も屋内スポーツなので焼けないだけ、一目でわかる筋肉質である。
長女レスリング次女競泳、三女柔道四女サッカー、五女陸上六女顔面キッカーと、
一人として重複していないのもおもしろい。ちなみに母親はママさんバレー選手。
そんな自他ともに認める強くたくましい女たちが、
見ず知らずの青年の肉布団になっているなんて、誰が想像できただろう。
長女と次女、三女と四女がそれぞれ向かい合うように円陣を組んで抱き合い、
隣同士の腕をからめて手の指をがっちりと組み合わせるだけ。簡易寝袋の完成。
長女の手ごろな大きさの二つのふくらみに首を挟むように入る。
目の前には競泳水着の日焼け跡がくっきりとついた次女の寝顔。
両脇を、ひったくりを一本背負いで捕まえたことのある三女と、
部員や教師からも信頼され、学内でも絶大な人気を誇る四女が固める。
五女は次女の股間に挟まれた俺のものをその小さな口で温めてくれている。
母親には六女が寝相で暴れないように両腕で抱えてもらっていたのだが
効果はなかったようだ。
それどころか、寝相よりたちの悪い音が聞こえてきた。
もちろん、オムツまで脱がせたのは俺だが、結果的に母親の顔にヒットするなんて、
それこそ誰が予想できただろう。
「んん……」
さすがに目を覚ましそうだ。このまま瞼を開けず=時を止めずに展開を聞こう。
「あらやだ……ゆいったらもう……」
完全に覚醒し、娘の分泌物で顔が濡れていることと、娘も自分も全裸なことと、
他の娘も全裸で俺の肉布団になっていることを一度に見て、理解したはずだ。
しかし母親は、俺(たち)の枕もとを、ゆっくり音をたてないように通り過ぎると、
寝室を出ていったようだ。やがて階下の洗面所から、顔を洗う音が聞こえてくる。
帰ってくると、新しいオムツを持ってきたのか、六女にそれをはかせると、
再び布団に横になる。
すぐそばに放置されている自分のパジャマは着ようともしなかった。
ましてや、自分の寝室に娘たちが集合し不審者を包んでいることも気にしていない。
俺は安心して五女の口内に、たまっていたものを出してみる。
すぐに目覚めたようだが、無意識にほとんど飲み込んでくれたようだ。
数十秒後には、六つになった寝息に、再び七つ目が加わった。

その後、夜明け前に全員起き始めたようで、一人ずつ寝袋が解体され始めたときは
名残惜しかったが、すかさず時を止めてジャージやTシャツ(もちろん下着も)を
着せずに家族の八割を日課のジョギングに送り出したのに喜んだことは余談である。

大家族の朝はいつも以上に騒がしいようだ。
何せ今日は十二人家族の約半分が参加する体育祭の日。
全員、今回の体育祭は忘れられないイベントとなるだろう。
いや、この先の数日間は、俺にとっても忘れられない日々となるはずだ。
何てったって、普段着も制服も体操服も、ジョギングに出ている間にクローゼットや
タンスからすべて押収して、ゴミ捨て場に出してしまったのだから。
さすがに靴下や靴は残しておいてあげたが。変なところで優しさが残っているな。
とにかくこの家族は、次に衣料品店に行くまでの間はほぼ全裸で過ごさねばならない。
(もちろん父親や息子たちもだ。聞きたくなかった人は忘れてくれ)
普段着はそのときに買えるが、制服や体操服はどうなるのだろう。……興味深い。
とりあえず俺も、次女と鼻から俺の分泌物を垂らす五女の間で、
すっかり慣れてしまった方法、瞼を閉じながら朝食を食べ始めた。
娘の顔を見て気づいたわけでもなさそうだが、母親に
「さくら、顔洗ってきなさい」
と言われ渋々立ちあがって洗面所に行ってしまう五女さくらちゃん。もったいない。
「あなたはもう洗ったから化粧するだけですよね」

頬に赤い渦巻、鼻の下に青い鼻水を書かれ、さくらちゃんの黄色い制帽をかぶり、
しかもその下につけているのは靴下とスリッパのみで食器を洗う母親。
そんな母親を手伝う全裸の長女と次女の顔面や身体にも卑猥な落書きをしていく。
二人はこのままそれぞれの職場や大学に行くのだ。哀れ、いや滑稽なものだな。

最初に体育祭の準備等がある三女、次男、四女が早めに登校していくようだ。
特に長女と並んでタイマン勝負の上級者である柔道女子高生の三女は、
普段から闘争心むき出しで、家族との喧嘩でもその強面をいかんなく発揮していたが、
名前も知らない男に全裸にされたあげく、トレーニング中も常に胸や尻をもまれたり、
股間を刺激されたりしたのに無視・我慢しきるとはなかなかの根性である。
いや、プロとしてはまだまだというべきか。
ましてや過去に犯罪者を撃退したことがある者が、
全裸で街中を歩くのはまずいのではないか?

そして正規の登校時間になって、初等部の三男と五女も玄関に向かう。
あとから四男と六女を連れて応援に行く母親と、どっちに同行しようか迷ったが、
母親のまぬけな面をみて満足し、二人についていくことにした。
もちろんさくらちゃんは制帽なしである。熱中症になるとまずいので、
集団登校する先輩の男子の下半身を脱がせ、彼の白ブリーフをかぶせてあげた。


俺は退屈な開会式を救護係に集合していた複数人の養護教諭たちと過ごすと、
午前の部をしっかりと水分補給をしながら大勢の笑顔の少女少年らと過ごした。
水分排出をしたくなっても、わざわざトイレに行くのも面倒だし必要ないので、
子供たちの水分として補給させてあげる再利用エコロジー。
いや、スタートは俺が子供たちの水筒からありがたくいただいた飲み物なのだが。
開眼=停止中でも口に注いだ液体や飲み込めるサイズの固形物なら、
往年の時間停止ものよろしく無意識にのどを鳴らして飲み込んでくれる。
少なくとも俺が悪戯した競技に出場した参加者は、
全員暑そうだったので服を脱がせてあげた。
だんだんグラウンド内の肌色や小麦色の割合が高くなってきている。

出場者のものに取り換えて行われたパンツ食い競争や、
足首ではなく乳首を専用のピアスでつなげた二人三乳など、
企画ものの作品をはるかに超えた勝負を見せてくれる学生たち。
午前の部のラストを飾る綱引きは見ものだった。
何せまた新しい試みにチャレンジしてみたからだ。
父兄も参加して、壮絶な戦いが繰り広げられていた競技中に開眼した俺は、
先頭の初等部一年と六年のペアから最後尾の父兄まで、
一人ずつ綱を離させていったのだ。
もちろん女子や参加していた父兄、の中の姉や若い母親は全裸にして、
綱の両脇に足を閉じさせ両腕を脇にそろえさせる。いわゆる気をつけの姿勢だ。
さて、この状態で瞼を閉じ=時を動かしたらどうなるか?
「…………………………」
けっこう長い間、グラウンド中をいやーな沈黙が流れる。しかし次の瞬間には、
「選手のみなさんありがとうございました。それでは次の競技に参りましょう!」
という放送部のアナウンスが流れ、再び喧騒が始まった。
参加者もふにおちない顔ややりきった顔など様々だが、ぞろぞろと退場していく。
用具係の女子をゴールテープで亀甲縛りしながら、俺は叫んだ。
「全スルーはないだろう! 勝ち負けまで気にしないのか!」

昼休みは再びあの大家族を見つけて、豪華な弁当をいただいた。
母親は俺のメイクの上にさらに通常のメイクを施して不気味さを増し、
黄色い制帽もかぶったままだ。
つまり、五女のさくらちゃんも白ブリーフをかぶったままだ。
白組だったのが不幸中の幸いだが、だんだんかわいそうになってきた。
それでも変わらぬ笑顔で料理を口に運ぶ家族たち。
「あい、どうしたの? 浮かない顔して。ほら、大地ももっと食べて」
しかし、三女の柔道少女改めあいちゃんと、次男の野球少年大地くんは、
午後の部への競技に向けて気合十分の形相だ。
昨夕からの全裸状態や俺の悪戯行為にようやく違和感を抱いてくれているのか、
ほとんど怒っているような表情にも見えるあいちゃん。
普段の食欲もないようだったので、時を止めて「腹が減っては戦はできぬだよ」と
俺の特製ソースをかけた唐揚げを俺の再利用ジュースで流し込んであげる。
残りの時間は真後ろに座って抱きつくように胸や顔をマッサージしてあげる。
しかし、あいちゃんのしかめ面はさらに渋くなる一方だった。

午後の部も滞りしかなかったが続いた。
お互いの頭にかぶったショーツを奪い合う騎馬戦や、
それぞれの部で使う道具(卓球部→ピンポン玉、書道部→筆、陸上部→バトン、
料理部→おたま、バドミントン部→羽根、文芸部→マジックペンなどなど)を
あそこに入れた状態で走る部活動対抗リレー。
ラストの学年別リレーの前に行われたフォークダンスは、サークルの中央に立つと
俺一人の力とは思えないほどの結果が一望できる時間で、これ以上ない優越感を得た。

ようやくラストの競技、初等部高学年から高等部三年までの体力自慢たちの見せ場。
実に全選手の三分の二以上が俺の悪戯の犠牲になっているのを見ると、
つくづく自分も何に体力使っているんだろうと自問自答したくなったが保留とする。
「あいー、大地―、もえー、海斗ー、がんばれー!!!」
入場の音楽が流れ、選手たちが小走りで移動し始めるタイミングを聞き計らい停止。
まずは応援席をぐるりと一周してみる。
全裸の娘を抱いている全裸羞恥メイクの母親と、そのそばに立つ全裸の息子と
白ブリーフをかぶった娘が、家族全員で大声で叫んでいるポーズのまま静止している。
ちなみに二人三乳の選手だったさくらちゃんは、
現在は応援に来ていた弟の空くんとつながっている。
彼女らが応援している選手たちも、いずれも惨憺たる有様の四人の娘と息子。
特に娘二人はともに人生史上最悪のコンディションで競技に臨まなければならない。
姉は自身の道着の帯で両手が使えるヴァージョンの亀甲縛りをされ、
昨日の放課後からもはや慢性的に被害を受け続けている妹は今にも倒れそうな顔色だ。
他の選手の表情を見て回っても、肉体的疲労より精神的疲労が勝っているようで、
それでも俺の存在に気づいてくれないのは言わずもがなだが、少しは感謝する。

最初に時間が停まっていることに気づいたときは喜んだ。神というものに感謝した。
そして半日バカやって過ごしたあと、いつのまにか気を失っていて、
次に目覚めたとき、眠っていた分の時間が経過していると知った。
最初は自分の行為がすべて無効化されたのではないかと誤認したが、
実際はその間、みんな俺にされたことを気にせずに生活し続けていると気づいた。
そんな生活に飽きてからは、どんなことをすれば気にしてくれるのか、
反応してくれるのかを模索する毎日。
最後に動く人間を見たのはいつだろう? 人の声を聞けるのは瞑目の中だけ。
最初は完全に無視された。そして一度にどんなことをしても意味がないことを知る。
少なくとも目の前に並ぶ家族のように、一日以上何度も何度も継続して働きかけて、
ようやく表情が変わったり、体調が悪くなったりする程度。

こうなったらもう、最後の競技までことごとく台無しにするしかない。
残しておいた小道具は、この日のために近所の病院や薬局を回って大量奪取した、
最低でも約一クラスの人数分はある浣腸薬と下剤の山である。
二種類とも注入・服用させるタイミングで効果が表れる時間は操れるが、
選手全員に使用することはできない。
第一レースの第一走者から餌食にして、早々と競技を終わらせてしまうか。
二人には何の恨みもないが、アンカーのあいちゃんともえちゃんの一つ前の選手を
餌食にして直前で走らせずに退場してもらうか。
それともやはりアンカー選手全員を餌食にして、グダグダの結果のまま終わらせるか。

どれを選ぶにしろ、この学園の今年の体育祭は、少なくとも俺だけの目には、
史上最低最悪の体育祭として、記憶に残り続けるだろう。
そろそろこんな挑戦もあきらめて、純粋なコレクターになる道もあるだろうか。
そんなことを思いながら、俺はまた静かに瞼を閉じた。


まとめ
   父 母 長女 次女 長男 三女 次男 四女 三男 五女  四男 六女
名前              あい 大地 もえ 海斗 さくら 空  ゆい
学年     社会 大3 大1 高2 高1 中2 初5 初2
体育祭  応援          参加 参加 参加 参加 参加  応援 応援




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