時間停止能力の使い方 〜ある男の場合〜

俺はある特殊な仕事をしている。
世界中から送られてくる様々な依頼を、とても安価な報酬で遂行するのだ。
多くの場合、その内容は一般人には極秘で、依頼主は大企業の幹部や政界の大物などだった。
しかし最近は客層の幅を広げて、(極端な例だが)自分の利益になるならば子供からの依頼も無償で引き受けることにしている。
元々は暇な時間を埋めるためにしていた仕事も、客たちの間で徐々に情報が伝わり、依頼も少しずつ増えていた。
だが俺の名前や顔を知る者は誰もいない。逆に知られてはまずいのだ。
今までの記述からも推察できる通り、仕事の内容は完全な犯罪である。
下手に例えるなら、「誘拐と暗殺の間」とでもいったところか。
誘拐犯のように身代金を要求せず、暗殺者のように対象を殺害しない。

対象を生かしたまま保管、隠匿・廃棄する

それが、二つの特殊能力を持つ俺にしかできない、仕事である。


これから遂行する依頼は三件。
アメリカ、日本、アフリカの小村で、それぞれ対象を捕獲、とりあえず第五保管庫に輸送。
このように、一日で世界一周などよくあることで、時差ボケにも慣れてしまった。
というか、一つ目の能力である瞬間移動によって、通常よりもひどい時差ボケが常に起きているために、感覚が麻痺してしまったという方が正確か。



その日ちょうどロサンゼルスにいた俺は、早速対象が住む町に向かった。
保管庫へ行く・国境を超える・緊急事態の場合以外は、なるべく正規の交通手段を使うようにしている。
今のところ能力に限界がきたことはないが、念には念を入れてだ。
到着したのは閑静な高級住宅街。広い道路を挟んで白を基調とした邸宅が並んでいる。
それぞれの家で監視カメラが作動している可能性があるので、なるべく人目に付かない木陰で、第二の能力である時間停止を発動する。
無音の世界で、メモを頼りに家を探す。
見つけた。住所を確認。間違いない。
平日の朝である。外出していないことは、依頼主から確認済みだ。
鍵は開いていた。もちろん黙って中に入る。
対象を探す。レイチェル=ジェファーソン。白人。大学生。
ダイニングでは彼女の母親と弟がいた。母親は食器洗い、弟はコーンフレークを食べている状態のまま静止している。
父親の出勤は早いので、もう家にはいない。レイチェルは自室だろうか?
二階のネームプレートがかかったドアを開け、中を覗いてみるがそこにもいない。
これは少し厄介なことになった。
おそらく彼女はあそこにいるに違いない。
鍵のかかったドアを探すとすぐに一つだけ見つかった。
世界中のほとんどすべての人間が、家にいながら鍵をかける空間。
トイレだ。
俺は意を決してドアの向こう側へ瞬間移動した。
目の前に絶世の美女が現れるとともに、ひどい臭いが鼻につく。
すぐにドアを開け換気をしながら、改めて対象を観察する。
場所が場所だけに少し息張った表情で下半身をさらしているが、写真と見比べて本人と確認。
流れるようなブロンドの髪に、透き通った蒼い瞳。
ギリシャ彫刻のような整った顔立ちも、シチュエーションがすべて台無しにしている。
何はともあれまずはその内股をこじ開けて、奥に見える臭いの源に携帯用の消臭スプレーを吹き付ける。
来週から始まる大学のミスコンに参加予定だった彼女も、こうなると哀れなものだ。
彼女の同級生を娘に持つ親からの依頼に納得しながら、俺は彼女の胸を揉んでみる。
手のひらに収まるお椀型の美乳で、服の上からでもそのやわらかさが伝わってくる。
わざとではないにしろその悪臭によって不快な気分にされた腹いせに、もっと彼女を汚してみたくなった。
その薄桃色の唇に指をねじこみ、口を大きく開けさせると頭部をつかんで斜め上を向かせる。
ズボンを下ろして姿を現した俺のモノを、便座の上に仁王立ちしてその小さな顔に向ける。
その無垢な表情の、だらしなく開いた口の中にゆっくりと挿入すると、舌の上を唾液で滑り、あっという間に喉奥に到達してしまった。
そのまま小用を足す。
停止状態にも関わらず液体が体内に流れようとしたため、最初の少しは逆流して口から出てしまったが、すぐに喉が順応して活動を始め、ほとんど飲み込んでくれた。
彼女もまさか自分が出している最中に他人のを飲まされているなど想像もできまい。
ゆっくり引き抜くと、勢いが強すぎたのか鼻からもあふれていて、とても無残な顔になってしまっている。
それでもミスコンの有力出場者は口をぽかんと開けたまま、少し気張った目で虚空をにらみ続けていた。
満足した俺は彼女の肩に触れて、いっしょに第五保管庫へ瞬間移動する。
一度でも時間停止したまま俺と瞬間移動すれば、停止を解除しても対象はそのまま、自由に動かしたり止めたりを操作することができる。
これで、一つ目の仕事は完了。レイチェル=ジェファーソンは失踪扱いで処理されることになるだろう。
保管作業は一日分をまとめて行うので、俺は少し休憩をとってから次の目的地へ向かった。


日本では、ある地方都市の集合団地に住む女性から依頼を受けていた。
時間停止してから部屋に入ると、先ほどとは違う放置されたままの食器や衣類が放つ独特の臭いが充満している。
リビングのソファーに依頼人の女性が座っていた。足元にはビールの空き缶や吸い殻で満杯の灰皿が置かれていて、それらを摂取したのが彼女であることは言うまでもない。
Tシャツにジーパンというラフな服装、目の下の大きな隈、フケの見える茶髪、酒と煙草の臭いなどを改善すれば、かなりの美女になるだろうと勝手に見立ててみる。
この依頼人が消したがっている人物を、その虚ろな瞳の先に発見した。
五歳くらいの少女である。実際はもっと上でも、十分な栄養が与えられていない子供は満足に成長もできないのだろう。
依頼内容の対象にはたった一文字、『娘』としか書かれておらず、名前も年齢も写真も無かったが、動機が『育児に疲れた』なら、間違いなくこの子だろう。
母親の血を受け継ぐなかなかの美少女だが、手足は華奢と言うにはあまりにも細く、一度も切られてないのか長い黒髪はボサボサ。着ている服も食べ物をこぼした跡が洗われないまま残っている。
その濁った瞳からは痛みや怒りよりも、あきらめや孤独感のようなものがにじみ出ていた。
長い間見続けることさえためらわれる、負のオーラのようなものがこの親子から発せられている気がする。
実際に少女から目をそらしたときに、俺は床に一枚の便箋が置かれているのに気づいた。
そこにはいびつだがはっきりと読める文字で、見慣れた要項が書かれている。
『追加依頼 対象:私 動機:自殺できない』
これで、依頼人がアリバイ作りのために外出していない理由が判明した。
しかし……。
まさか自分の消去を依頼されるなんて、俺も初めての経験である。
しかし、この美人親子とその財産が手に入るなら、承るしかない。
二人に最後の思い出を作ってあげようと、娘を抱えて母の膝の上に座らせる。
目元や口角を指で動かして満面の笑顔を作ると、より一層親子の顔が似ていることがわかる。
愛用しているカメラで正面からその和やかな家族の風景を撮影すると、できた写真を母親に持たせ、二人の視線の先に来るように手を上げさせた。
こんなことに何の意味があるのか、俺は自問しながら持ってきた風呂敷を広げ、そこにこの部屋中のめぼしいものを片っ端から運んだ。
といっても、カードや通帳は使えないので現金が入った財布に、本人たちが買ったのでもちろんサイズが合う下着に、自分に似合うと思ったメイク道具など。
これらは直接頂いた方が、こちらが選ぶ手間が省けるので助かる。
キッチンに残っていたカップラーメンや冷蔵庫のビールも合わせて包むと、母の手から写真を取り、片付いた床の中央に置いた。
笑顔の親子を眺め一度ため息をついた俺は、その頭を両手で撫でるように触れて、保管庫へ瞬間移動する。


今日最後の仕事は、時間も手間もかかるが上物は期待できない種類のものだ。
やってきたのは、アフリカ大陸の某所に存在する小村。
地図にも載ってないほど小規模で、住民は五十人にも満たない。
身分の違いなどあるはずもなく、老若男女、住民全員で完全な自給自足をしている平和的な村である。
しかし、某先進国からの依頼で、俺は彼らが提示した十分の一の報酬と引き換えに、この村をそっくりそのまま『消去』することになった。
時間停止して村に入ると、中央にちょうどよい小さな広場があったので、そこに大きな青いビニールシートを広げる。
これから一軒ずつお邪魔して、住人を一人ずつシートまで運んでいく。
ほとんどがTシャツに短パンというラフなスタイルで、特に女性はもう服を着ることもないと思い、すべて脱がせたことだけ書いておこう。
保管庫での作業が楽になるように、とりあえず男女・年齢別に分けると、子供、成人、老人で六グループになる。
女の子供と成人だけ眺めると壮観としか言いようがない。
十数人の黒人女性が、それぞれ料理や掃除などの日常的なポーズのまま、しかし全裸で乱立している風景は、とても異様であり、滑稽にも見えた。
集めた住民の数を確認してから、自分もシートの上に乗る。
直接体に触れていなくても、全員が同じものに触れていれば、たとえ何百人でも輸送が可能なのだ。
俺は一時は話題になるであろう一瞬で廃村となる地を一瞥してから、数十人の収穫とともに保管庫へ瞬間移動した。



保管庫と言っても、捕獲した人間をすべて入れるわけではない。
特に男性や老人、俺の好みの対極のような容姿の女性は、たいてい虫や獣に傷つけられないように梱包した後、今は使われていない巨大な炭坑などの地下空間や、誰も近づかない山や谷や砂漠の地中などにまとめて封印する。
もちろん場所が重複しないように、詳細に記録もつけている。
遠い将来にそれらが発掘されるようなことがあったら、学者たちは目を丸くすることだろう。
それ以外の女性たちは、俺が世界中に所有している別荘や貸し倉庫で大切に保管される。
特に今日手に入れたばかりのレイチェルや不幸な親子は、メイクや衣装を施して部屋を彩るオブジェに生まれ変わり、黒人の少女たちは関節を曲げたり数人を組み合わせたりしてイスやテーブルなどの家具に再利用されることになる。


男性と老人をビニールとテープでしっかりと梱包し、某国にある炭坑の奥深くに積む作業を終え帰宅すると、玄関でいつもの二人が迎えてくれた。

一卵性双生児でそっくりな容姿とは真逆な性格の違いで互いを憎み、それぞれ相手の消去を依頼して、残念な結果に終わった中学生の姉妹。
笑顔で肩を組む二人は全裸で、股間には蛇のような長いバイブの両端が挿入されている。
長い争いを終えて一つになった姉妹を眺め、微笑ましく思いながらリビングに入ると、そこにはまた国籍豊かな同居人たちがくつろいでいる。

例えば、ソファーの周りにいる派手なドレスを着た五人は、大物議員と関係を持った風俗の女性たちで、彼らを強請った罰というか、成れの果てがこの現状だ。
俺に依頼する前に実力を思い知らせたのか、ドレスに隠された五人の体には、生々しい傷跡やあざが残っている。
それでもなお媚びるような表情でM字開脚や尻を突き出すポーズの彼女らは、悲哀な魅力を保ったままだ。
現在は俺の疲れを癒してくれる存在として、様々なことをして楽しませてもらっている。

キッチンに立っている裸エプロンの女性は、有名俳優の裏の顔を目撃してしまった家政婦である。
その職業柄、時々彼女だけ停止を解除して、料理や掃除などの仕事をさせている。
最初はどうにか逃げ出そうと躍起になっていたが、今ではずいぶん従順になったものだ。

またダイニングテーブルの上に仰向けに横たわっている白人と黒人の女性は、つい先月まで犯罪者とその事件の特別捜査官という関係だった。
まず白人の方の連続通り魔が、黒人の方の捜査官の消去を依頼し、その数日後に逮捕された際に精神鑑定で罪が軽くなったことを受け、捜査官の父親が(娘も殺されたのではないかと思い)死刑宣告ならぬ消去依頼をしてきたのだ。
今では二人とも全裸で同じテーブルの上、同じ食器という用途で俺に使用されている。


夕食の前に風呂に入ろうと浴室に向かった俺は、脱衣所で裸になりガラスのドアを開けた。
ちょっとした銭湯のような巨大な浴槽には、ほとんど水面が見えないくらい大勢の肉感的な美女たちが絡み合いながら浸かっている。
完全に全身が湯の中に入っている者もいるが、停止しているので何の問題もない。
女体の山の上に寝て、隣の巨乳女性を寝返らせ体を覆うと、全身が心地良い体温に包まれて幸せな気分になる。
気味悪がる方もいるだろうが俺は基本的に目を開かせたままなので、正面に迫る緑色の瞳を見つめながら柔らかい唇を無心に吸い続ける。
洗い場に正座で控えている幼児をスポンジ代わりに自分の体を、ついでに運んでおいた親子と村の少女たちも一人ずつ頭を洗ってやる。
大勢の身動き一つしない女性たちがいる広い浴室で、少女たちの頭を黙ってシャンプーする男の絵は、さぞかし異常なものだろう。
ちなみにレイチェルは珍しい状態で停止している、残りの村の成人女性たちは需要が高いという理由で、同じような能力者たちの間で行われるオークションに出品する予定だ。


今夜の夕食は簡単に、今日頂いたカップラーメンで済ますことにした。
いつも多すぎると感じているスープは、せっかくなので栄養の足りない少女の元へ運ぶ。
髪も洗ってさっぱりした表情でたたずむ少女の口をこじ開け、レイチェルのときとは対照的にゆっくりと注ぐと、おいしそうにゴクゴクと飲み干してくれた。
他に野菜の皮や肉の脂身、賞味期限が切れてしまったなど、頑張れば食べられるが普通なら生ゴミになるはずのものも、彼女たちなら文句一つ言わずに飲み込んでくれる。
やがて涙目で飲み込まないようになったり、下腹がある程度膨れてきたりしたら、庭の畑に運んで停止を解除する。訳もわからぬままスッキリしたら再び停止してこれを繰り返す。
当人には厳しいが地球には優しいリサイクル法だ。
それに伴い、仲間を集めてパーティーを開くときに、残飯を一度に肥料化できるよう、処理専用の大食いの女性も一人、ストックしてある。
見た目はとてもスリムなのだが、以前能力者たちの大規模な集会で出たゴミ袋約十個分を、わずか数十分で平らげさせたときは、その能力に我々も舌を巻いたものだ。
今日からは優先的にこの不幸せな少女に与えていくことにしよう。


大きな寝室に大きなベッド。一人で眠るには広すぎるので、もちろんここにも同居人たちが大勢いる。
俺が所有している何百単位の女性たちの中でも、特に選りすぐりの十人が中央を囲むように並んで横たわっている。もちろん全員全裸だ。
元々これといって好きなタイプ、年齢・人種・性格などがなく、裏を返せば『美女・美少女』という大きなくくりに入れば誰でも好きになれる俺の特選は、それこそ『世界がもし十人の女性だったら』さながらの多様さだった。
十歳から三十歳、白人・黒人・黄色人、プロレスラーからシスターまで、全員が俺の好みにピッタリの十人。
ベッドの中央に座り、まずは枕を決める。
ガーナ人教師の巨乳もいいが、今夜はアフリカで見飽きていたのでロシア人スパイの柔尻にしよう。
背の高い体を苦労して頭の方に移すと、次は枕は枕でも抱き枕。
サーカスにいた中国人の軟体少女とサウジアラビアの富豪の娘を左右に寝かせる。
最後が肝心の布団選び。
貧乳だが気が強そうな二人、政治部の記者だったイギリス人に若くして国立研究所を統括していたドイツ人の科学者を、並べて足の上に寝かせる。
最年少であるフランス貴族の令嬢の口にモノをくわえさせてから、腹と胸の上にイタリア人シスターと日本の芸者を並べて完成。
黒人のプロレスラーと教師には、明朝の処理を担当してもらおう。
彼女らの配置をこのように日替わりで決め眠りにつくのが、一日の中で心身ともに最も満ち足りる瞬間である。


次回は俺の幼少期の話から、どのような人生を送り今に至るかを、もちろん捕獲秘話も交えながら紹介していこうと思う。
俺は一日の仕事を振り返りながら、ゆっくりと瞼を閉じた。




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