時間停止能力の使い方 〜八人の能力者〜

浅い眠りから覚醒した俺は、背後に視線を感じて振り返った。
背もたれとして俺を支えていた黒人の少女が、無表情のまま澱んだ瞳で虚空を見つめている。
その唇に軽くキスをしてから立ち上がると、出口付近にサボテンのようなポーズでたたずむエスキモーの少女が、露出狂のようにはおっていたコートを着て家を出た。


毎回変更される会場に瞬間移動すると、そこにはすでに四人の参加者たちがくつろいでいた。
係員から渡されたプログラムを見ると、参加者は八人とあったので、俺はちょうどいい時間に到着したと言える。
隅の席に知人の姿を見つけ近づいてみると、その前にひざまずいた全裸の少女が彼のモノをくわえていた。
「ひどい顔ですよ。時差ボケですか」
「ここでは今が朝なのか昼なのか夜なのか、確かに俺は把握していない。だが顔をしかめる理由でもない」
「というと?」
「大事なコレクションを旅行先まで持ち運んで何になるんだ?」
「同じコレクションでも、これは使い果たしていつ廃棄してもかまわない、性具レベルです。それ以上でも以下でもない」
「俺が言いたいのは、その性具をカバンに詰めて持ち歩く行為が理解できないってこと」
「あなたも瞬間移動能力を持っていなかったら、すぐ僕のように慣れてしまいますよ。クッ」
どうやら出したらしい。『性具』はコクコクとかわいらしく喉を鳴らしながらそのすべてを飲み込んでいった。
口からモノを引き抜き長い髪で拭くと、取り出したペットボトルの水をゆっくり流し込んで洗浄し、再び挿入する。
「本人に自覚が無いのが、せめてもの救いですよ」
俺が言うのも変だが、お前が言うな。
「それよりほら、例の母娘がご到着だ」

母娘というと、俺は個人的に先週末入手した育児放棄家庭を連想したが、もちろん関係ない。
ここでいう母娘とは、組織内でも有名な時間停止能力を持つ母娘のことだ。
華麗なドレスに身を包んだ二十代後半の女性と小学校低学年くらいの少女。
そんな二人が中央の特等席に座ると、続々と係員たちが『女性』を抱えながら入ってきて、母娘を囲むように配置し始める。
母の周りには娘と、娘の周りには母と、それぞれ同世代の着飾った女性たちが、二人の両隣に座らされ、前の通路にひざまずかされ、後ろの通路に立たされていく。
あっという間に男女の比率が逆転してしまった会場の隅で、俺は一人ため息をついた。
彼女らの場合、持ち運び云々以前に、コレクションが同性だということに驚かされる。
それこそ俺が言える立場でもないのだが、この母娘、いったいどんな経緯でこんな趣味嗜好に至ったのか。
それにしても、あっちの少女たちは服が着せられているだけましかと思いながら隣を見ると、彼は今日何発目かの絶頂を迎えていた。
いや、ていうかお前、まだ始まってすらいないぞ?

最後に、邪教集団が着るような黒衣で全身が包まれた組織のリーダーが入ると、客席の照明が消え、舞台袖にスポットライトが当たった。
司会者が一礼して話し始める。
「本日はご参加していただき、誠にありがとうございます。さて、今回の会場は『日本』ということで、出品していただいた中でも、日本産の商品たちはラストにさせていただきます。なお、例によって金額については共通単位として、金額のみおっしゃってください。各国の相場までは関知しかねますのであしからず」
そう、今回の会場もまた日本だった。なんだか最近よく行っているような気がする。
趣味の芸術作品制作のインスピレーションを求めにたまに寺や神社を訪れるのだが、今回は材料購入も兼ねて『東京』の美術館巡りでもしていこう。


幕が左右に開くと、中央に最初の商品が置かれている。
プログラムを見ると、彼女は某国の特殊部隊隊員で、麻薬組織のアジトに突入した瞬間に、時間を止められたらしい。
相手を威嚇する険しい表情のまま、全裸で立ち尽くす正義の味方が、これから(自分も含む)悪人たちの競売にかけられるのだと思うと、同情と興奮が入り混じった複雑な感情に陥る。
特に、サブマシンガンを持っていたのであろう両手には、大きなバイブが握らされ、小さな電子音をたてながら震えたり回ったりしている状態が、参加者たちを失笑させていた。
プログラムを一通り眺め、買いたいものを決めていた俺は、彼女には手を出さない。
数分後、最初の商品は日本人の青年に競り落とされた。
コレクションにギャップのある衣装を着せることで有名な彼は、いったい彼女にどんな格好をさせるのだろう。
いろいろ想像をふくらませるうちに、舞台に次の商品が運ばれてきた。

レイチェル=ジェファーソン。白人。大学生。
俺が出品した排泄中の元ミスコン出場予定者だ。
服はすべて脱がされ、今は透明なプラスチック製の便器に座る彼女の肛門からは、あのときの悪臭の源がそのままぶら下がっている。
彼女は俺の予想通り、排泄中・妊婦コレクターの老人が競り落とした。
続けて、分娩台に座り苦悶の表情のまま時を止められた妊婦も、その老人が競り落とす。
ここまで来ると、俺は正直ついていけない。
それともあの歳まで生きると、最後の倫理観まで失ってしまうものなのか。

次に登場した、俺が出品した小村の成人女性たちは、白人の少年に競り落とされた。
彼の夢は、『黒人女性だけで家を造る』だったか。
バカバカしいとは思わない。努力すれば俺にだってできてしまうような実現可能な夢なのだから。


「さて、ここからは日本産の商品です。今回も記憶操作能力者のみなさまのご協力で、団体商品も問題なく出品することができました。なお、例によって人数に関係なく、年齢の若い順にご紹介させていただきます」
司会者がそう言った直後、舞台上に突然一台のワゴン車が入ってきたのにはさすがに驚いた。
側面にかわいいイラストが描かれた車。その窓の向こうに、黄色い帽子をかぶった幼稚園児たちが座っているのが見える。
目を凝らすとほぼすべての席が埋まっていて、もちろんその約半分は男の子のようだ。
「どうぞ、中をご覧になってお考えください」
司会者の言葉に、俺、知人、親子の母親の三人はおもむろに舞台に上がった。
車内に入ると、園児たちは黄色い帽子以外、何も身につけていなかった。
同じくエプロンしか着ていない若い先生も含め、全員が笑顔でおしゃべりしたりふざけあったりしたポーズのまま静止している。
確かにこれだけの人数が失踪したら、大事件になっているだろう。記憶操作能力者の中でも、不特定多数の人間に一度に使用できるようなレベルの人間が、協力してくれているのだ。
「さすがに処女ではないですか」
「キミ、もしかしてこのコが好きなの?」
知人は両手で二人の先生の男性遍歴を確認し、母親は隣の女の子を見ながら赤くなっている男の子の意思表示されたモノを撫でている。
俺は俺で一人ずつ女の子の顔を確認し、俺の作品の材料にふさわしいか鑑定していった。
しかし、やはり幼稚園児だけあって体格が幼すぎる。
この母親に競り勝てる自信もなかった俺は、次の団体に期待することにして席に戻った。
案の定、園児たちは母親、先生は知人が競り落とし、ワゴン車は退場した。

次に登場したのは合唱部に所属していた女子中学生たちである。
一年生から三年生まで、十人×三段で並んだ三十人の全裸の少女たちが、大きく口を開けたまま身動き一つしない光景は、壮観を超え圧巻といっても過言ではない。
歌唱力は確認のしようもないが、容姿はどれも一級品だ。
さっきとは逆に母親にとっては歳をとりすぎていたのだろう。俺は幸運にも彼女らを司会者が提示した最安値で競り落とすことに成功した。
今から、家で一人ずつその口の中にモノを挿入する絵が浮かぶほど、有頂天になる俺。
その後は、体格ごとに現在考案中の新作の材料にすればいい。
いや、本当に良い買い物をした。

ちょうど俺が出品した最後の一人が次だったので、とりあえず心を落ち着けることにする。
彼女は清純派アイドルとして有名だったが、先月の熱愛報道の直後、失望したファンからの依頼で、俺に『消去』されることになった。
自宅アパートを訪ねたとき、彼女は噂の彼氏と本番中だった。
男の上にまたがり、あえぎながら腰を振っている最中に止まった様子の彼女は、もはや清純とは真逆の境地に至っている。
ファンたちを裏切った罰として、彼女にはそのポーズのまま出品されてもらうことにした。
彼氏のモノが入っていた場所には、今は極太のバイブが挿入されていて、ゆっくりと上下に動いている。
彼女を競り落としたのは、驚くべきことに今まで一切手を挙げてこなかったリーダーだった。
プログラムの参加人数にはカウントされていたが、やはり普通に買い物に来ていたのか。

続いて運ばれてきたのは、走っているポーズのまま静止した筋肉質な女性たちである。
日本発祥の『駅伝』という陸上競技の大会に参加していた、二十四人の女子大生ランナーだ。
何区を走っていたのかまでは記載されていないが、そんなことはこの際どうでもいい。
全国大会で競い合っている選手たちを、関係者全員の記憶とともに表世界から『消去』するなんて、並大抵のことではない。
それこそ国家規模ではなく、世界規模の話だ。
しかも俺たちはこれから、その彼女らを手に入れるために競り合おうとしている。
前にもこのような商品を見ていたから驚きこそしなかったものの、この組織の力にはいつも恐怖すら感じる。
ユニフォームは下手に脱がせずに消滅させたのか、全身からほとばしる汗の粒までもがそのままの状態を保っている。
彼女らは俺、知人、日本人の青年、親子の娘の四人で話し合った結果、公平に六人ずつ競り落とされることになった。

そしていよいよ、長かったイベントのラストを飾る商品が舞台に登場する。
第一印象は、本当に日本産なのかという疑いだった。
顔のつくりは確かに日本人のそれだったが、スタイルは外国人のモデルにも匹敵するレベルである。
しかも、そんな美女が左右に二人並んで、笑顔のまま妖艶なポーズをとっているのだ。
もちろん服など身に着けておらず、その豊満な胸やくびれたウエスト、きれいに整えられた陰毛などが、スポットライトに反射して輝いている。
プログラムによれば、二人はコンビでタレント活動をしていたらしい。
こんな美女がバラエティ番組に出ていたなんて、本当に日本は奇妙な国だ。
今はもう、ここにいる人間しか存在を知らない、哀れな絶世の美女二人組。
合唱クラブ以上の商品はないと思っていたが……、
欲しい。
その一言に尽きる。
数秒後には、奇跡が起きていた。
みなそれぞれお気に入りの商品を競り落としたあとだったらしく、俺だけしか手が挙がらなかったのだ。
本日二回目の最安値購入を成功させた俺は、有頂天を超える喜びの感情に支配された。


今回の獲得数、合唱部の中学生三十人、駅伝大会の選手六人、タレントの美女二人で、合計三十八人。

瞬間移動能力を持っている俺は、一度に全員を運ぶことができるので便利だ。
他の参加者たちは、トラックやコンテナにつめて輸送したり、瞬間移動能力者に協力を求めたりしなければならない。
対面室で迎えてくれた新しい同居人たちは、すでに一枚のカーペットの上に並立していた。
そこに自分も乗り、自宅の検査室へ瞬間移動。
興奮のしすぎで疲れていたので、正午近かったが入浴することにする。
もちろん全員でだ。
とりあえず今まで浴槽に浸かり、沈み、浮かんでいた者たちと入れ替えに、合唱部の面々を放り込み、その中央に寝そべる。
選手たちの長距離走で流された汗は、三人ずつ巨乳コンビの胸を使って洗い流してやろう。
そのあとはどの作品の材料にするか。
それこそ日本の木像群や実写版名画の一部。二人には美術館の入口を飾る象徴のような作品になってもらおう。

俺は少女たちに両手・両足・モノをそれぞれくわさせながら、妄想をふくらませていった。

  ◆  ◆  ◆

日本人の青年が住んでいる部屋は、さながらマネキンが乱立するブティックのようだった。
しかし着せられている服はウェディングドレスにナース服、拘束具や下着のみなど、まるで統一感が無い。
そのサイズやデザインも、下は幼児から上は三十代まで幅広く、よく似た二人が並んで亀甲縛りされている姿は見るに堪えない。
特殊部隊の隊員はその中央で『お座り』のポーズをとっていた。
犬耳のカチューシャをつけ、肛門にはしっぽがついたバイブ、首輪は近くに立つくノ一忍者の足につながっている。
怒りに満ちた表情も幸せそうな笑顔に変えられ、彼女は永久に与えられることのないエサを求め『お手』をし続けていた。

  ◆  ◆  ◆

老人は幼いころから訓練を積むことで、能力の機能を追加することに成功していた。
具体的には、『部分解除』と『巻き戻し』。
彼が排泄中・妊婦のコレクション専門になったのは、この二つを自由に使いこなせるようになった結果だった。
今日も老人は帰宅早々、手に入れたばかりの二人をテーブルの上に並べ、股間を見せつけるように両足を開かせる。いわゆるM字開脚のポーズだ。
少し気張った表情のレイチェルは肛門から大きい方が出たまま、苦痛と喜びに満ちた妊婦のあそこからはまさに新しい命が生まれようとしているまま、静止していた。が、
老人はその正面に置かれたイスに座ると、おもむろに会得した能力を発動した。
二人の、両手両足と口の周囲以外の時間が動き出す。
数秒間が経過してからようやく状況を(少しでも)理解し、目を見開く二人。
そのときには、レイチェルは最初の一本を排泄し、残っていた小さい方が流れ始めている。
妊婦は手足以外のすべてを大きく上下させ、そのうち子供の頭部が見えてくる。
涙や鼻水も垂れ流し、喉は動かせるので言葉にならない悲痛なうめき声が部屋中に響き渡る。
やがて妊婦も出産に成功し、血まみれの赤子が産声をあげた瞬間、老人は再び時を止めた。
すぐに巻き戻しが始まり、二人が数分の間に出し切ったものがすべて体の中に戻っていく。
表情も最初に並べたときまで戻ると、老人は立ち上がって二人を満面の笑顔に変えた。
このように、彼のコレクションたちは幾度も地獄のような時間を経験させられ、毎回違った悲鳴を轟かせる運命なのである。

  ◆  ◆  ◆

欧州の山奥、誰も近寄らない森のそのまた奥に、少年が住むログハウスがある。
決して大きくはないが、自然の風景に溶け込んでいる素晴らしい外観のイメージとは裏腹に、内装は数いる仲間が全員口をそろえて「異常」と評させるものだった。
なぜなら、入り口のドアを開けた瞬間、見えるのは黒一色のみ。
『黒』。ただその一点のみに執着した能力者の趣味は徹底している。
床、壁、天井はもちろん、テーブルにソファーなどの家具も、色の濃さは違えどもすべてが黒で統一されていた。
それもそのはずで、よく見るとそこには、全裸の黒人女性たちが敷き詰められているのだ!
隙間なく、所狭しと、家具もすべて女体製で、その全員が精気の無い目で唯一の白人である少年を恨めしそうに見つめている……ような錯覚に陥る。
彼はこの異常な空間で、女の上で目覚め、女を踏みつけながら移動し、女の上に座って食事をし、女の中で入浴し、女とともに眠るという生活を毎日繰り返しているのだ。
想像するだけで吐き気を催す者も、少なくはないだろう。
ちなみに彼の三人の兄弟が、それぞれ白人、黄色人、その他の人種(中東など)の収集家であることは余談である。

  ◆  ◆  ◆

早くも豪華な二世帯住宅に住む母娘は、普段は世間知らずな未亡人とそのお嬢様という役を演じている。
飾られている女性たちを見るだけで部屋主がわかるのは先述の通り、二人は互いに近い年齢の女性しか所有しないことでも有名だった。
幼稚園児たちは母親の寝室に置かれている。
レベルの高い四人が抱き枕としてベッドの上に、残りの女子たちは男子たちのモノをくわえていた。
余った二人の男子がシックスナインの体位で互いのモノをくわえさせられているのは、さすがに可哀想な光景である。
娘の部屋には、女体で作られた勉強机にイス、本棚などが置かれている。
六人の駅伝選手たちは汗をきれいに拭かれ、ベッドの上に仰向けに並んでいた。

  ◆  ◆  ◆

知人は某国の郊外に存在する、今は使われていない研究所に住みついていた。
どうやら(人間を含む)動物実験がされていたらしく、堅牢な鍵をかけられる単純な鉄製の檻や壁の一面が強化ガラスになっている部屋が多くあり、女性たちを監禁することで快感を得る典型的なサディストにとっては、鬼に金棒(?)な施設である。
帰宅した彼は、まず放置プレイ中の五人を見に行った。
一度に全員を解除するのはあまりにも危険なので、新入りを数人ずつ監禁して楽しむのだ。
内側からは鏡に見えるため、隣の小部屋に彼が入ってきたことに気づかない五人の女性は、出かける前と同じようにずっとガラスに体当たりし続けていた。
特に決まった嗜好を持たない彼は、できるだけ国籍や年齢が異なるように選ぶのだが、解除されてから一時間も経てば、自分たちの状況を理解・協力し、脱出を図ろうとする。
言葉や年齢は違えども所詮は同じ人間である。生存本能が脅かされていることぐらい、直感的にわかるのだ。
必死な形相の五人を眺め、微笑ましく思いながら時間を止めた彼は、ドアの鍵を開けて中に入り、順番に犯していく。
最後の一人まで出し終えると、お礼のしるしに豪勢な食事を置いて、部屋から出る。
自分たちに起きた何度目かの異変に気づきながらも、パンや肉をむさぼり食う五人。
そんな様子を見て、彼は初めて不気味な笑い声をあげた。

  ◆  ◆  ◆

リーダーはここ数年の間、一度も黒衣を脱いだことがない。
文字通り全知全能な存在にとっては、人間や並みの能力者の常識も通用しない。
誰もその姿を見たことはなく、声を聞いたこともない。
もしかすると『誰』を『自分で』に置き換えてもよいのではないか。
そんな何でもありのチートキャラが、リーダーだった。
しかし、他の時間停止能力者たちと同じ趣味を持ち、決まった空間で生活している存在。
誰もその場所を知らない世界には、どれだけの数のコレクションが保管されているのか。
例によってそれも把握していない可能性が高い。
本人が知らないことを、他人が知るはずもない。
能力者の仲間が増えていくこと、彼らの日常に関するアイディアもリクエストを求めることなどを考えながら、リーダーは自分の世界へと旅立った。

(この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません)






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